仙台市内の某所にたたずむ謎杜探偵事務所には、今日もまた不思議な依頼主が訪れていた。

「すみません、私を元の姿に戻す、呪文を教えてほしいのですが……」

事務所の留守番をしていた少年にそう頼んできた相手は、一目見た印象では「巻物」のように見えた。

「えーっと、まずはお名前を教えてくれますか?」

人でない「依頼主」が尋ねてくるのは初めてではないので、少年は冷静にそんなことを尋ねる。

「あの、記憶がないので、名前はちょっと分からないんですが、何かを作っていたような...」

「記憶が、ない....何かを作っていた?」

「すみません、ここの事務所さんは、記憶を失った人の対応が得意と聞いたので……」

どこでそんな噂が流れているのかは分からないが、

確かに、この事務所を訪問する依頼主は半分くらい記憶がなかった。

「でも、それじゃあ、元の姿に戻る手がかりも」

「あ、それなら大丈夫です!」

少年が言いかけると、「巻物の精」のような依頼主は、自分の身体をぱたっと開いた。

「『お前に書かれている文章を読めば、手がかりが分かる』。

これだけ、言葉を覚えてまして。

でも、私一人じゃ読めないんです」

そう言って、依頼主は少年の前にうつぶせに倒れこんだ。

「あ、ちょっと失礼します。なになに…」

『この巻物に書いてある謎を解けば、巻物から元に戻る呪文が分かるぞ。 時空のナゾビト』

「巻物の精」の背中には、どこか見慣れた文字でそんなことが書かれていた。

「……分かりました。ご依頼、引き受けましょう」

「本当ですか! ありがとうございます!」

こうなったら、とことん謎を解き明かしてやろう。

少年は、やさしく依頼主を持ち上げると、事務所の外へ勢いよく駈けだした。

 

仙台市地下鉄・謎解きゲーム 2018WE QUESTオフィシャルサイト

2018年9月1日〜10月15日開催!

「緑の風・Green Breeze!」

少年が謎を解いて得た呪文を唱えると同時に、「巻物の精」のような依頼者は白い煙に包まれた。

「うわっ!……あ、あなたは!」

元々小さな巻物状の依頼人がいた場所に、今は眼鏡をかけた品のある老人が立っていた。

「やぁ、おかげさまで元に戻れたようだね。この彫刻の作者、佐藤忠良と言います」

佐藤氏は深みのある声でそう言った後、笑みを浮かべた。

「たまに上の世界から降りてきて、自分の作った彫刻が無事か見に来ていたんだがね、

今回は妙な人物に話しかけられて」

佐藤氏はそこまで言ってから、軽く後頭部をかいた。

「『お前の彫刻をもっと多くの人が見に訪れるようなゲームをやるんだが、協力してくれるか?』

なんて言うんでね、興味を持って頷いたら、まさか姿を変えられるとは」

佐藤氏はすっかり記憶を取り戻したようだった。

貫禄がありながら茶目っ気のある佐藤氏の笑顔に少年がつられて笑うと、

佐藤氏はふと真面目な表情を見せた。

「私の作品を、こうして訪れてくれてありがとう。この旅で見たものは、私にとっても

君にとっても、きっと意味のあるものです。そして、できれば」

佐藤氏はそこで言葉を切ると、少年の目をじっと見つめた。

「君の目で見たことや、君の頭で考えたことを、君の手で書いたり、作ったりしてほしい。

そんな人が増えることを願っていますよ」

言葉を噛みしめ、少年が瞬きをした途端、佐藤氏の姿は跡形もなく消えていた。

「忠良さん……」

不思議な依頼者とのやりとりを思い出しながら、少年は一緒に訪れた仙台の街の様子を思い返す。

「きっと、また会えますよね?」

少年が秋の空に問いかけると、まるでそれに応えるように、やさしい風が記念広場を吹き抜けた。

 

主催:仙台市  共催:仙台市交通局